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おろかものの正義論
おろかものの正義論
おろかものの正義論
小林 和之

 神という絶対的な「正義」を失った現代人が、それでも「正しさ」を求めるとするならば、それはどういった「正しさ」になるのかを考察した本。これが正しいことだ、これが正義だと主張するのではなく、本を読んだ人たちそれぞれが「正しさ」について考え始めることを要求する本だ。

 社会の中の具体的な事例をもとに考えを進めようとする構成なので、取り上げられている事例によって読者の関心は異なってくると思う。個人的には6章「他人に迷惑をかけてはいけないか」、7章「選択の自由があるのはいいことか」、8章「暴力をどう管理するか」あたりが面白いと感じた。(1/2)
| 文学・哲学・思想 | 08:34 | comments(4) | trackbacks(2) |
ダ・ヴィンチ・コード (下)
ダ・ヴィンチ・コード (下)
ダ・ヴィンチ・コード (下)
ダン・ブラウン, 越前 敏弥

 上巻を読んで軽い失望を感じつつ下巻を読み始めたのだが、エンターテインメント小説としては下巻のほうが多少面白くなる。それは上巻に書かれたレベルの低い「キリスト教の秘密」についての真相よりは、小説オリジナルの「殺人事件の真相」の方が“お話”としての真実味があるからかもしれない。

 複数の登場人物の一人称視点を次々切り替えていく、映画で言うカットバックの手法を用いる小説だが、この小説ほどその切り替えスピードがめまぐるしい本をこれまでに読んだことがない。ドラマのセットアップ段階にあたる上巻ではこのスピード感がかえってうっとうしく感じられ、「もっとじっくり腰をすえて読ませてよ」とも思ったのだが、下巻はひたすら追いかけっこが続くので、このスピード感がむしろ効果を上げているのかもしれない。

 ただし上巻の最後に出てきて僕を失望させた「キリスト教の秘密」は、この下巻でもまったく軌道修正されていないし、殺人ミステリーとしても僕自身はさほど興奮を味わうことができなかった。主人公たちが最後に脱出に成功することは、読者としてもあらかじめ予期していること。それをいい意味で裏切りつつ、物語を落着させるアイデアがもう少し欲しかった。(1/1)
| 文学・哲学・思想 | 07:57 | comments(0) | trackbacks(0) |
ダ・ヴィンチ・コード (上)
ダ・ヴィンチ・コード (上)
ダ・ヴィンチ・コード (上)
ダン・ブラウン, 越前 敏弥

 ルーブル美術館で起きた殺人事件を発端に、キリスト教の歴史に秘められた重大な秘密が暴かれていくというミステリー小説。この「秘密」は上巻の最後のほうで明らかになるのだが、これがあまり面白くない。新約聖書正典の福音書を偽書と捏造だと断じ、逆にナグ・ハマディ文書などグノーシスの福音書をそのまま隠された歴史書だと言い切ってしまうあたりは、新約聖書正典の成立について多少なりとも知っている者から見れば噴飯もの。正典確立までに紆余曲折があり、そこに歴史から隠蔽された何かしらの出来事が数多く秘められているのは事実にせよ、それが「ピリポによる福音書」や「マリアによる福音書」に書かれているわけではない。

 「イエスは神ではなく偉大な人間であった」という主張は何十年も前からリベラルな聖書学者が行っているものであり、そこにマグダラのマリアとの結婚を持ち出さずとも聖書学の世界では既に確定した“定説”となっている。しかし人間であったイエスを「神」に祭り上げたがゆえに、人間イエスの教えはキリスト教として2千年に渡って命を保つことになったのだ。(ただしその教えはイエスを神とする信仰によって大幅に歪められてはいる。)そうでなければ、ローマ帝国支配下のパレスチナに現れた貧しいユダヤ人預言者のことを、2千年後のわれわれがありがたがる必要などまったくなくなってしまうのだ。イエスが結婚してその子孫が現代まで生きていると仮定するにせよ、それが「神の子孫」ならありがたみもあるが、「2千年前のユダヤ人預言者」の子孫がありがたいのか?? そんなものが2千年間地中海世界を支配してきたキリスト教を、根底から揺るがすものになるのか??

 つまり「ダ・ヴィンチ・コード」という小説が持ち出した「秘密」は、さほど目新しくもないし、衝撃的なものでもないのだ。秘密結社であるシオン修道会がマグダラのマリアやイエスについての秘密を守ってきたという話は面白いが、絶対秘密にしなければならないその秘密を、なぜレオナルド・ダ・ヴィンチが作品の中で暗号として明らかにする危険を冒しているのかという疑問も生じる。この本はダ・ヴィンチの「最後の晩餐」や「岩窟の聖母」に秘められた象徴に言及しながら、なぜダ・ヴィンチがそんなものを絵の中に描く必要があったのかについては沈黙している。

 暗号や象徴をちりばめた殺人ミステリーとして、この本がどの程度のレベルにあるのか、日ごろミステリーを読まない僕にはまるでわからない。しかしこの本が扱っている「キリスト教の歴史」というモチーフは、とてもまじめに取り合う必要のないレベルだと思う。(12/29)
| 文学・哲学・思想 | 07:21 | comments(0) | trackbacks(1) |
ホンモノの文章力―自分を売り込む技術
ホンモノの文章力―自分を売り込む技術
ホンモノの文章力―自分を売り込む技術
樋口 裕一

 「文は人なり」「ありのままに書け」「自分の言葉で書け」といった作文教育の基本を蹴散らし、「文は自己演出なり」と言い切る異色の文章読本。庁舎は小論文指導に定評があり、これまでに何冊もの小論文指導書を書いているが、今回の本はそれを学生向けから一般向けに改めたもの。もちろん学生の小論文にも参考になるだろうが、就職の自己PRや志望動機の書類、文集への寄稿、新聞の読者欄への投稿、インターネット日記、手紙、絵葉書、メールの書き方まで、「型」を使って書き方を指南するスタイルはかなりユニーク。

 文章を書くには「型」を覚えてしまうのがいいという著者の主張に違和感や反発を覚える人もいるだろうが、じつはプロの物書きほど「型」の効用を知っているのではなかろうか。問題はその「型」をどれだけたくさん持っているかなのだが、残念なことに学校では作文に役立つ「型」をひとつも教えてくれない。プロのもの書きはそれぞれが独学で自分たちの「型」を身に着ける。僕も映画瓦版や雑誌の記事を書くときは、いくつかの「型」の中からそのときもっとも相応しいと思われる「型」を使って記事を書く。「型」があるからこそ、原稿をある程度の速度で書くことができる。そういう意味で、まず「型」を覚えよという著者の主張には共感できるところが多い。

 手紙やはがきは紋切り型の表現でかまわないが、そこに一言だけ自分の肉声を加えるというテクニックは、かつて名コラムニストの山本夏彦氏も述べていたこと。紋切り型でも心遣いは通じる。紋切り型だからこそ、そこに加えられた肉声が際立つ。こうしたことも、やはり学校では教えてくれないものだ。

 物書き家業で食っている身としては素直に肯けない部分もあるのだが、それでも「型を身に着ければ文章力は確実にアップする」という著者の主張はその通りだと思う。また人間は書く前に何かしらの考えがあるわけではなく、書くことで考えが生み出されるのだという主張も、まさにその通りだと思った。僕などは映画瓦版の記事を書くことで、その映画の評価が明確になるということがかなりある。

 自分の文章スタイルが確立している人は特に読む必要もないだろうが、それでも読めば「なるほど」と思えるところが多いはず。ネットの普及で誰もが文章を書く機会が増えてきている。作文に苦しむ学生だけでなく、多少なりとも文章を書く機会を持つ人は一度目を通しても損のない本多と思う。(12/28)
| その他 | 11:41 | comments(0) | trackbacks(0) |
すごい言葉―実践的名句323選
すごい言葉―実践的名句323選
すごい言葉―実践的名句323選
晴山陽一

 名言・金言・警句・箴言・アフォリズム・定義などを集めた本は数々あるが、この本で紹介されているのは他の類書ではほとんど見られないユニークなものが多い。著者曰く『「すごい言葉」には二種類ある。すなわち、誰もが知っている「すごい言葉」と、私しか知らない「すごい言葉」の二種類だ。(中略)私が自分の手で丁寧に掘り起こし、ほこりをぬぐって、ひとつひとつ陳列台に並べたのが、本書の「すごい言葉」たちである』(はじめに)。

 この本に集められている言葉のいいところは、全体にユーモアがあるところだ。最後にジョークもいくつか紹介されていて確かにそれも傑作なのだが、それ以外の言葉たちも、どれも笑いに満ちているのがいい。読んでいて思わずニンマリすること請け合いなのだ。本書の冒頭「人生について」は以下のような「すごい言葉」で始まる。

 「人生は不治の病である」
 「人生はセックスによって伝染する病気である」

 全編かくのごとし。読んでいてついクスクス笑ってしまうような言葉があちこちに隠されているので、電車の中などで読むときには注意が必要。すべての言葉に英語の原文、もしくは英訳文が付いているので、英語を勉強している人にも便利かも。英語に興味のない僕は、すべて読み飛ばしましたけどね。(12/24)
| その他 | 09:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
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