懐かしい日本の言葉ミニ辞典―NPO直伝塾プロデュース・レッドブック
藤岡 和賀夫
サブタイトルは「NPO直伝塾プロデュース・レッドブック」。レッドブックというのは絶滅の危機にある野生動物のリストのことで、この本は『「絶滅のおそれのある」日本の言葉を何かに留めよう』(「はじめに」)という主旨で編纂されている。僕はこの手の「半死語」のような言葉が好きで、同じような本をこれまでに何冊も購入して呼んでいるのだが、今回の本はあまりにもレベルが低いという印象を持った。
各見出し語の横に☆印のマークがあり、☆ひとつが「懐かしい」、☆☆ふたつが「超懐かしい」ということらしいのだが、これがあまり当てにならない。「お天道様に申し訳ない」や「罰が当たりますよ」「人さらいにさらわれるぞ」が☆☆なのは納得できるのだが、「お足許の悪いところ」「そりゃ殺生な」「現を抜かす」「爪に火をともす」「別嬪」「いなせな男」なども同じ☆☆なのは奇妙に思える。同じように☆☆の「時分時」「金棒引」「近所の鼻つまみ」「恋患い」なんて、少なくとも僕は使ったことがある言葉だ。これを「超懐かしい」と言ってしまう人は、単に言語生活が貧しいだけ何じゃないだろうか……。
そもそも「チョ〜なつかし〜」なんて言葉で、若者層におもねろうという気持ちが嫌らしく感じられてしまう。単に「懐かしい」「すごく懐かしい(とても懐かしい)」でいいではないか。
言葉の説明が不足、曖昧、誤りである例も多い。例えば説明が不足している例としては上記の「人さらいにさらわれるぞ」。これはさらわれた子供がサーカスに売られるということまで書き加えておくべきだが、職業差別になりそうで遠慮したのか。「鰯の頭も信心から」の「頭」に「かしら」と丁寧にルビを振るのはいいが、辞書によってはこれを「あたま」と読ませるものもある。「お手数ですが」も同じ。「てかず」とルビがあるが、これは「てすう」と読んでも間違いではない。
解説の間違いも多いのだがその一例。「赤貧洗うが如し」の「赤」を「何もないこと」と解説し、加えて「赤ん坊の赤、赤心(せきしん・まっ白な赤)の赤と同じ」と補足するに至っては、この文章を書いた人は自分の書いた文が理解できているのかすら疑われる。赤ん坊は「体が赤みがかっているからいう(広辞苑)」のであって、赤心は「いつわりのない心。まごころ(広辞苑)」という意味。「赤」という文字にはいろいろな意味があって、「赤貧」の「赤」は確かに「何もない」という意味なのだが、「赤ん坊」や「赤心」とは同じ「赤」でも意味が違うのだ。
見出し語によっては「ふむふむ」「なるほど」「そうだったのか!」という面白い読み物になっているのだが、ダメなものは本当にダメ。こうした歩留まりの悪さが、この本の価値をずいぶん下げているように思う。続編も購入しているのだが、う〜む、あまり期待できそうもないなぁ……。(12/13)