テレビの嘘を見破る
今野 勉
テレビ番組の製作現場にいる著者(テレビマンユニオン取締役副会長)が、テレビ・ドキュメンタリーで使用される様々な工夫や演出テクニックを披露しながら、社会的な非難を受ける「やらせ」の問題について考えを述べている。僕はこれを“テレビ・ドキュメンタリー”に限らず、映画も含めた「ドキュメンタリー作品全般」についての論考として読んだ。
本の最初に、ドキュメンタリー制作の現場で普通に行われている撮影上の「工夫」と、社会的な批判を浴びる「やらせ」の境界線はどこにあるのかという話が出てくる。そこで語られている数々の「実例」がじつに面白い。有名人のインタビューで、インタビューアーの相づちを後から撮って編集でつなげる話が出てくる。これは映画『ブロードキャスト・ニュース』でも再現されているので、僕はそういうものだろうと知っていたけれど、知らない人はまず気づかないだろう。(『ブロードキャスト・ニュース』はすごく面白い映画なので、まだ観たことのない人はぜひご覧あれ!)
僕自身何度かラジオやテレビ取材を受けた経験があるため、本の中で紹介されている「再現」や「演出」については、なるほどそうしたことは日常的に行われているだろうという実感がある。例えば僕は今年の2月に牛丼が消えるという日、いくつかのテレビ番組から取材を受けたのだが、その中には予め連絡を受けて牛丼屋まで出向き、下打ち合わせをした上でたまたま店を訪れた一般客として牛丼を食べ、コメントするというものがあった。テレビを見ている人には事前の打ち合わせがわからないので、たまたまテレビが取材をしているときに、偶然店に入ってきた客のように見えただろう。ニュース番組の中の特集コーナーは「報道」の範疇にはいると思うのだが、そこでさえこうした仕込み取材が行われているわけだ。
テレビ・ドキュメンタリーというのはドキュメンタリー映画から発生した映像表現であり、この本の中でもドキュメンタリー映画についての言及が多く参考になる。欧米では「再現映像」がドキュメンタリーの正当な表現手法として認められているという話には、目からウロコが落ちた思いがする。ロバート・フラハティ、レニ・リーフェンシュタール、亀井文夫、市川崑などが、ドキュメンタリーの中でいかに「再現」を巧みに使っているかなど、知っている話も多いけれど、これをテレビ・ドキュメンタリーの「やらせ」と並べて論じるとかなり刺激的な内容になってくる。
原一男の『ゆきゆきて、神軍』やマイケル・ムーアの『華氏911』など、日本の映画ファンもよく知っている映画のタイトルが出てきて、その問題点について語られている。本のタイトルは「テレビ」となっているが、これはドキュメンタリー映画を観るときのよい手引き書にもなるはずだ。(12/21)